大判例

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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)9536号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕次に被告国の責任の有無について判断する。

<証拠>によると、有沢忠一は昭和三九年九月七日頃訴外北村隆資からの問合により今井貞一と称する者が有沢忠一には無断で偽造の権利証等を利用し、本件土地を担保として第三者から不正に金融を得ようとしていることを察知したので、神奈川県山手警察署へこの旨通報したこと、そこで同警察署勤務の警察官佐藤忠一郎は同月一〇日午後一時過ぎ横浜地方法務局へ赴き登記官たる登記課長田村義太郎に面接し、本件土地を表示して、何者かが本件土地を売りに歩いている模様なので登記簿の記載がどのようになつているかを調べるため閲覧させて貰いたいと申入れ、同課長の指示で係員によつて提出された登記簿原本を閲覧したが、その当時はまだ有沢忠一の名義のままであることを確認し、約三〇分後に立去つたこと、そして同日午後三時頃被告小林からする前記各登記申請がなされ、受付けられた後、翌日田村によつて登記簿に記入されたことが認められる。

原告は、前記のとおり、本件各登記申請の添付書類が偽造であるし、しかも田村が警察官より右の如き事実を聞知したのであるから、同人はもとよりのこと、その旨を記載した符箋を登記簿原本に貼付するなどして他の係員の注意をも喚起し、本件土地について登記申請がなされた場合は関係書類を調査して本件各登記申請の添付書類が偽造であることを発見し、申請の受付を拒むか受付後も速やかにこれを却下すべきであつたと主張する。

しかしながら、まず、登記官は登記の申請書が提出されたときはこれを受付け、受付係および申請書に所定の事項を記載しなければならない(不登法第四七条)、しかる後登記官は遅滞なく申請に関するすべての事項を審査すべきであり(不登法施行細則四七条)、その結果不登法四九条各号に該当する場合は申請を却下すべきである。しかして申請書の添付書類が偽造もしくは変造であることが判明した場合は同条八号の「申請ニ必要ナル書面又ハ図面ヲ添附セサルトキ」に該当するものというべきである。しかしながら、登記官はいわゆる形式的審査権限を有するのみで、その審査は申請に当つて提出された書類を資料としてこれにもとづいて行われる書面審理であり、これ以外の資料を参酌して実質関係について積極的心証を得るまでの審査をなす義務も権限もないのである。従つて、提出された書面が通常の注意をもつてしても偽造もしくは変造であることが明白である場合は格別として、その成立の真正について職権探知等の方法により真否の判断を得ることを要求し得ないものというべきである。

本件の場合についてこれをみると、登記官が前記各登記申請を受けたこと自体なんら過失でないことはいうまでもなく、また、本件各登記申請の添付書類中、有沢忠義の住民票を除くその余の書類はそれ自体を検査してもこれを偽造と看破し得ないものであるし、有沢忠義の住民票も前記のとおり正規に発行された他人の住民票を巧みに改ざんしたもので、特に指摘されれば格別、そうでない限り、その形式、葉山町長の認証印の存在等からして容易にその成立の真正を疑い得ないものであるから、登記官が右偽造もしくは変造の事実を看過し、本件登記申請を却下しなかつたからといつて、注意義務を欠いたものとして非難し得ないのである。そしてまた、登記官が警察官から特定の土地について偽造書類を利用した虚偽の登記申請がなされる虞れがあることを聞知したからといつて、登記官に対し当該登記簿にその旨を記載した符箋を貼付するなどして、右虚偽の登記申請の発見に努めるべき注意義務を課する法律上の根拠も認め得ない。

(間中彦次 佐藤安弘 中野久利)

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